町山智浩氏のサマーウォーズ評

昨日のTBSラジオ宇多丸のウィークエンドシャッフル」にて、町山智浩さんがゲストでサマーウォーズについて語っていました。

http://podcast.tbsradio.jp/utamaru/files/20090905_satlab_3.mp3

内容は上記から聞けますが、簡単に文字起こしをしたので掲載いたします。宇多丸さんとのかけあいはほぼカットしています。

細田守監督作品は初めて見たんですけど、アニメの魅力ってなんでもない日常の日常的なことを再現しているところで、それを見ると凄く気持ちよくなりますね。普段気にしていない何気ない動きとかハッ!とするようなことが一杯あって、飲み物を飲むシーンだったりがほっとんするんですよね。中でも、夜明けを表現するのにアサガオを咲かせるというシーンが良かったです。アニメーションの快楽は沢山ありました。


ただ、すごく傲慢な話なんだよね。普通の家族が世界を救うみたいな感じに言われてるけど、おばあちゃんは政界のフィクサーみたいなもんで、他にも警察官やら自衛官とかいて、物凄い体制側に位置しているじゃない。しかも、悪役として出てくる人はその中にいられないめかけの子っていう設定で、そこが保守的だなと。それがひっくり返ると思ったら返んないで、むしろ体制側に取り込まれるというか、体制側に妥協して降参する事で話が終わるというのが嫌だなと。「じゃあ、私たちは体制に全て妥協しなきゃいけなくて、それが大人になるってことなんですか!?」って思いました。だって、侘助が一番かっこいいじゃないですか。その彼が間違っているという風にしか描かれない。


あとは、ネットの中で戦うっていう描写ですけど、もうキーボードカタカタはやめようよっていう(笑)他にジョイスティックとかインターフェースがあるだろうと。殴り合いでプログラム同士の戦いを表現するというのはマトリックスでやっちゃったことだから、別のを見たいですね。まぁ、あまりディテールの事を言っても仕方ないんですけど、もう少し何とかして欲しい。


最も重要だと思うのが、夏希のキャラクターが弱すぎたということ。どういう子か全然わかんない。夏希は侘助に惚れてるんだから物語上、背伸びしたい女の子であるべきで、その部分が全然描かれていない。

「お前らセックスしたか?」とからかわれるシーンがあるけど、無反応なんだよ。そこは「決まってるでしょう」って言うべきで、デビュー当時の内田有紀みたいなキャラであって欲しかった。そういうドキドキが無い。主人公から見て、先輩がHな経験があるかもしれないし、もしかしたら僕もいいことがあるかもしれないと、でも実はまだ子供で、背伸びしていただけだったみたいな。


あと、家長をおばあちゃんがやっていて、夏希というのはそれを引き継ぐ存在なわけで、その片鱗を見せるべきだった。


宇多丸
人に指摘されて納得した部分で、花札代表に出る理由がちゃんと描かれていないというのがあって、そこは根拠が薄くてもいいから何か理由付けが欲しかったなと。

(町山)
そうなんですよね。あと、浴衣なんか着て、やってるうちにひざをパン!と立てたりして、見えそうになるみたいな、そういう甘酸っぱいドキドキが足りないんだよね。だって、夏希のファンって全然いないじゃない。ファンになりにくいんですよ。


あともう一つ問題なのが、コミカルな描写はあるんだけどギャグを入れてないから、誰も笑わないんですよ。そこは脚本家とかが得意じゃなかったら、他の人に頼めばいいんですよ。浦沢義雄とか?わかんないけど(笑)
客も笑いたいんだけど、決定的なギャグがないから笑えない。コミカルの雰囲気のみなんです。ただ、やりすぎると問題で、さじ加減が凄く難しい。前半で笑わせておくと客があったまるんですよ。トトロとかクレしんのオトナ帝国みたいな感じで。後半は自分のテーマやればいいから、前半はギャグを入れたほうがいいと思うんですけどね。