未来への提言 「犯罪学者 ニルス・クリスティ 〜囚人にやさしい国からの報告〜」一部文字起こし Part.1

http://www.nhk.or.jp/bs/teigen/2009.html#200910012000

森達也さんによるインタビュー部分だけを文字起こし。厳罰化、過剰収容の影響については別にVTRでの説明がありました。



(森)

日本では、ここ数十年の間に厳罰化が進んでいます。刑務所の過剰収容も問題となっています。


(クリスティ)

今、ノルウェーや日本では、国民の1300〜1600人に一人が受刑者です。これは世界的には少ない割合です。他のヨーロッパ諸国はもっと多く、中でもイギリスは600人に1人の割合まで悪化しています。そして、世界で最悪の二カ国が、ロシアとアメリカです。アメリカは、成人の100人に1人が受刑者という恐ろしい状況です。その原因は、国民の中で最も傷つき、苦しんでいる社会的弱者をないがしろにしていることにあります。人種差別や貧富の格差が広がっている社会がどんなに恐ろしい自体を招くのか、アメリカはその見本となっているのです。


(森)

アメリカのスリーストライク制度はどう思われますか?


(クリスティ)

全くひどいものだと思います。この法律によって、犯罪を犯した人と一般市民の間に更に大きな隔たりが生まれてしまいました。この法律には血が通っていません。人間を機械的に扱っています。


(森)

治安が良くなることを望んで厳罰化を求めるんだけど、逆にそれで治安が悪くなるということはありますか?


(クリスティ)

ええ、現実にそうなっています。なぜなら、後世の為に入るはずの刑務所が、多くの場合、悪い事を学ぶ学校になってしまっているからです。一般社会から遠ざけられ、塀の中に閉じ込められ、話すことが出来るのは受刑者同士だけなんていう状況は明らかに破壊的です。


(森)

日本人が一般的に思ってるのは、犯罪を起こす人たちはとても凶暴で邪悪なんだから、社会から隔離しなきゃ駄目なんだと。


(クリスティ)

私たちは、彼らを特別な人間なんだから、自分たちから遠ざけておきさえすればいいんだという考えを止めて、受刑者の事をもっと知ろうと努めなければなりません。刑務所の環境についても、中で生活している受刑者達はもちろん、私たち市民も共に責任を持って考えていかなければなりません。刑務所の状態をよく観れば、あの中にいること自体が拷問なんです。拷問は人を本当の意味で更正させることは無いのです。

ノルウェーでもかつて、まずいものをたべさせることが罰になると考えられ、ひどくまずい食事が出されていた時代がありました。それでは駄目で、どんな人でも衣食住の環境が劣悪であってはいけません。私は、世界の多くの刑務所のように、犯罪者を酷い状況に置けば、それに懲りて二度と罪を犯さなくなるといった考えは間違っていると思います。


(森)

今の厳罰化、あるいは過剰収容は社会にとって、どんな悪影響を与えますか?


(クリスティ)

今、多くの国では厳罰化を進め、劣悪な環境の刑務所に、たくさんの受刑者を長期間隔離しています。このようなことを推し進める背景には、犯罪者が苦しめば苦しむほど、善い社会に繋がるんだという考えがあると思うんですが、実際にはその逆の結果が現れています。


(森)

僕は今、古典的な命題について考えています。それは罪と罰の事で、僕も含めて一般の人たちは、罰というのは苦痛を与える事であると思っています。


(クリスティ)

受刑者の多くが、これまで生きてきた中で苦しんできているんです。報復として刑罰で苦痛を与えるということは、追い込まれて間違いを犯した人を更に苦しめ、もっと悪い人間にしようということなんです。私は、これまで恐ろしい犯罪を犯した人たちに合って話を聞いてきました。一般の人たちは、犯罪を犯した人のことをモンスターだと思い込んでいます。しかし、これまで私はモンスターには会ったことは無く、人間にしか会ったことがありません。社会的な生活環境を整えれば、彼らを人間として見ることが出来るようになるのです。