塩狩峠 童貞としての信夫

塩狩峠 (新潮文庫)

塩狩峠 (新潮文庫)

あなたは、見ず知らずの人の為に自分の命を捧げる事が出来ますか?




この話のオチはあらすじに既に書かれております。
なんの信仰心も持たなかった少年が成長するにつれて、
母や友人の妹などに影響を受けキリスト教に傾倒していき、
その果てその少年が行き着いたものは、愛するもののことを捨て、自分を捨て、暴走した汽車の乗客の命を救った犠牲死・・・。その過程をただ綴ったものです。
この話は、実際にあったことを元に描かれているとのことで、結構衝撃を受けました。


今では宗教という存在は多くの日本人にとって、あってないようなものですが、
この作品で書かれている時代はキリストが邪教として扱われており、その雰囲気が詳細に表現されていて、自分にとってはとても新鮮で興味深く読むことが出来ました。
そして、この主人公の完璧さ、宗教うんぬんは置いといても見習うべき所はたくさんあります
信者でない人や、主人公の厚意を良く思わない人とのやりとりがあるのですが、決して他人を軽蔑したりせず、この人たちがこんな風なのは自分が悪いんだと、その人に尽くそうとする姿勢が心を打たれたと同時に、「自分だったらこんな風にはなれないなぁ・・・。」とか、
「ちょっと主役が完璧すぎるんじゃないか?」など色々思ったりしました。


彼は、幼い頃の友人の妹に、どこか不思議な感じを覚え後に友人家族がとある事情で遠くに行ってしまってからも尚、その昔の感じがずっと忘れられずにいて、
再会したときにこれは恋だ!と気付き、様々な誘惑を断ち切り童貞を守り抜いて、守り抜いて、そして結ばれて結婚が決まった、
という時に、事件が起こるのです。(24,5歳ぐらいだったはず)
彼の心理描写の中に、

自分の腕の中にあのふじ子(結婚相手)を抱ける日がくるのかと思うと、信夫(主人公)はしみじみとしあわせだった。

というのがあります。そんな幸せを投げ捨て、彼は自らの命を他人の為に絶ちました。
このシーンでは、信夫の心理描写というのがほとんどありません。
一体どんなことを考えて、命を投げる覚悟をしたのかどうかは分からないようになっています。
そこが不満といえば不満ですが、それは読者が考える事なのでしょう。


僕は、彼には類い稀なる童貞力があり、それが彼をここまでの人間にした!のではないかと思ったりするw
この、婚約者のふじ子は足が悪く、原因不明の肺病らしきものと脊髄カリエスという病気という負の要素があったのですが、結構な美人として描かれていました。
では、これが美人でなかったら信夫はどうなっていたのか非常に気になる所です。


なんか、前半と後半の落差が激しい気がしますがどちらも正直な感想です。
この感想を見て興味をもたれた方は、是非読んでみてください。