ひきこもり問題を考える TBSラジオ「Dig」テキスト化 Part.3

パーソナリティ:荻上チキ、外山惠理アナ

ゲスト:斎藤環精神科医

電話出演:池上正樹(ジャーナリスト)、井出草平社会学者)

(池上)

この問題は貧困とリンクしていて、支援団体の会費も払えないという人が急増していると聞きますし、家を失ってホームレスになるひきこもりの人もいるという状況があります。貧困と絡んでいますが、セーフティーネットはひきこもりに関してのものはなく、生活保護も親と同居していたり、持ち家だったりで受けられないという状況です。


荻上

貧困の状況というのは、当事者や家族を二重に苦しめますよね。日本は失われた何十年というのを続けてきて、福祉が削られたり、有限なパイというのをどこに配分するべきなのかということに対して多くの人が凄く敏感になっている印象を持っていて、生活保護を受給することに対してのバッシングが今でも行なわれている状況の中で、ひきこもりに対して国がお金を使ったりして救済する事に対する理解の浸透の具合だったり、反応はどうなんでしょうか?

(池上)

ニートが話題になった時にひきこもりと一緒くたにされて、得体の知れないイメージが増幅され、中傷の対象になったりしてますます潜在化した時期がありました。

荻上

テレビで取り上げられたニートの青年が「働いたら負けかなと思ってる」と発言して、そのキャプチャだけがネットでばんばん貼られて、そのイメージだけでニートやひきこもりが語られていたという部分がありましたよね。

(池上)

そういう括られ方を本人達も気にしていて、中傷の対象になるから目立つ事を止めようということでまたどんどん潜在化していったり、ニートは34歳までということで、それを超えた人は支援を受けられず、たらい回しにされるような状況がありますよね。

(外山)

ニートというのは働く気が無い人のことを言うんじゃないんですか?

(斎藤)

そうじゃないんです。ニートにも非希望型と非求職型と分類が細かくありまして、働く気が無いという層もあるけれども、働きたいけど仕事が探せない、これは一見変に聞こえますけど、漠然と働きたいと思ってるんだけど就労努力に結びつかないという層があるんです。だから、希望するかしないという所はなかなか単純に割り切れない問題がそこにはあります。

荻上

無業者とニートというのは定義が違うんですよね。失業者と無業者も微妙に違うんですけど、仕事を探してもなかなか見つからない、交通費がないということで探せないという状況があって、諦めてしまう人がいる。そういう人は定義上ニートになるわけです。だから、失業カウントも問題のある分類ですし、ニートの側にとっても気力とかに関連されがちなイメージが付いてしまうので、定義を見直すべきだという意見に賛成しますね。

(池上)

ニートとひきこもりを一緒にして欲しくないということを家族会は訴えていまして、機能障害であるというような言い方をしています。怠けでも甘やかしでもないことを分かって欲しいということでもあると思うんですよね。

(外山)

病気とは違うんですか?

(斎藤)

見過ごされてきた発達障害の人は一定数いるだろうとされていますが、この割合は精神科医によって判断が分かれるところで、3割以上いるという人もいれば、私のように1割ぐらいだと言う人もいます。

家族会のニーズとしては、病名にしてくれた方が保険が使えるとかコスト的に色々と楽になる面があるので、切実な要求があるんです。ただ一方では、病名化することによって治療行動を起こさない人が批判されてしまい、ひきこもりは病気なんだから治療しろというプレッシャーが一気に高まるわけです。ひきこもりにおいて一番頭を抱える問題というのは、当事者がなかなかアクションを起こせないというところがあるので、病名化することによって叩かれたり、民間団体やNPOが支援に回りにくくなってしまうという問題があります。