ひきこもり問題を考える TBSラジオ「Dig」テキスト化 Part.2

パーソナリティ:荻上チキ、外山惠理アナ

ゲスト:斎藤環精神科医

電話出演:池上正樹(ジャーナリスト)、井出草平社会学者)

荻上

ひききこもりのイメージとして、ゲームやネットばかりやっていて、甘えているというようなイメージを持っている人が多いと思うんですが、こういったイメージと、実態にはどれくらい違いがあるんでしょうか?

(池上)

先ほど、斎藤先生が仰ったように、時々外に出たりしている人もいますし、私が取材した中にはアフリカ等の南米に旅行に行っているという人もいました。ただ、会社に行っておらず、人間関係がないというような、何か精神的メカニズムとしてそういう状態になってしまっているという印象があります。

(外山)

一言で「ひきこもり」と括ってしまうのはちょっとおかしなことで、その中でも色んなパターンがあるということなんですかね。

(池上)

10年ぐらい前は、不登校の延長線上で若年者というイメージがあったんですけども、最近取材してきて思うのは、高齢化していて、特に勤務をされていた方が、体が動かないとかいう理由で出勤できなくなり、ひきこもっていくというような場合が多いという印象です。

東京都の統計でも、30代、40代が増えていて、そのきっかけが職場不適応という半数近くというデータがあります。大きく分けると、不登校の延長で長年ひきこもっている人と、社会から離脱して復帰できなくなってひきこもってしまう人の2つに分かれるという印象です。

荻上

ツイッターで、若年者と中高年を分けた考えた方がいいという意見と、社会経験の有無で分けて考えないといけないのではという意見があったんですが、なんとなくの印象では、それぞれケアの仕方が違ってくるんじゃないかなと思うんですが、そのあたりはどうでしょうか?

(池上)

家族会の方の話としてよく出るのが、これは目に見えない特性や障害があって、緊張や不信感などで体が動かない、それを自分でコントロールできないということで、障害名を付けて欲しいと訴えている現状があると思うんですけど、実際メカニズム的なところは、きっかけは別として変わらないところが根っこにあるのかなと。根っこというのは、思春期の頃なんかに原因があって、それがたまたま発症しなかったりとか、気付かれなかったりされたまま、大学に出て、就職までしたけど、何かの拍子でそれがプツンと切れてしまったんじゃないかなと。

荻上

言い方がいいかどうか分かりませんが、元々爆弾のようなものをどこかに抱えていたということなんでしょうかね。これについては斎藤先生はどう思われますか?

(斎藤)

まず高年齢化の問題なんですけども、今年、厚生労働省のひきこもり研究班の最終報告書が出るんですね。ちょっと今は難航してまとまっていないんですけど、私がそれに関わっていまして、実質調査を担当しています。
自分が診ている67例のデータを解析したものでは、平均年齢は32歳なんですね。私が20年ぐらい前に調査したものでは平均年齢は21歳だったんですが、そこから10歳も上がってしまっている。

荻上

そのまま上がってきているということですか?

(斎藤)

その通りです。20年前ひきこもっていた人が、まだひきこもっている可能性があるんです。抜けられないということですね。これが一つ。

それから、ひきこもり始める年齢なんですが、かつてはほぼ90%ぐらいが不登校の延長だったんです。それが今はかなりの割合で就労経験者が増えてきています。これは驚くべき事で、私は「仕事やってたやつはひきこもらんだろ」と思っていたんですが、それが通用しない状況になっているということです。

荻上

不登校の延長線上でひきこもっている人と、就業経験がある人のひきこもりとでは、ケアの仕方は変えていく必要があるんでしょうか?

(斎藤)

そうですね、もう治療という柱では立ち行かなくなっている面があります。就労問題とも絡んできますし、今後確実に絡んでくるのが福祉問題ですね。少なくともこの2つの領域を抜きにして「ひきこもり」、この際、ニートもまとめちゃいますけども、この問題を語ることは無理だろうと。広い意味でのメンタルヘルスの問題もありますけど、治療という狭い視野で考えていると本質を取り逃がすだろうと思います。福祉とか政策よりで考えていかないと対応が後手に回ってしまうと思います。

荻上

個人の内面の問題で、「甘え」なんだから叩き出せばなんとかなるとして、実際、叩き直すという形の支援団体があったりしたわけですが、それを保守の人たちが声高に支持したりという流れがあったりするんだと思うんですけど、心理的なケアだけではなく、経済的なケアだったり、家庭内暴力があるのではればシェルターの問題とか、施設養護とか、複雑な状況があるので、何かひきこもりに対してセーフティーネットが1個あればいいという状況ではないということがはっきりしたということですよね。

(斎藤)

そうですよね。ワンストップサービスみたいなものがありますけど、窓口が出来たとしても、メンタルヘルスは当然として、カウンセリングや福祉担当者、それから切実にニーズを感じているのが、ファイナンシャルプランナーで、つまりライフプランですね。これは、定年を過ぎたご両親がひきこもりの息子とどう共存していくか?これを考える時にお金の問題が凄く大事で、日本の家庭では「死」と「お金」と「セックス」がタブーという状況がまだ強くて、この話を家庭内で誰もしないんですよね。なので、なし崩し的に行き詰まり、心中事件が起きたりしています。それを考えると、きちんと今あるお金を元にしてどれぐらい食い延ばせるか、どこから福祉の線になるのかということを早めに考えていかないと駄目で、セーフティーネットも大事ですけど、個々人で対策は立てられるわけですから、早めに考えて欲しいなと思います。

荻上

豊かになったからこういった問題が出てきたとか、個室化が進んだからだとかいう私論がお便りで来たりしているんですが。

(斎藤)

個室化の問題と富裕層の問題は二大誤解であると言っていいと思います。

まず、個室の有無は関係ないと事例を診てきて分かります。というか、ひきこもっている人の多くは色んなところを個室化しちゃうんですよね。リビングや台所を占拠したりして他の家族を締め出そうとしますから、個室の有無は関係ないと私は思っています。

それから富裕層の問題に関してですけど、私は色んなところで講演するんですが、一番答えに窮する質問をする団体は福祉関係で、「生活保護を受給している家庭でもひきこもりは沢山いて、こういった問題をどうしたらいいんでしょう?」と問われるんですね。私が対応できるのは、本人はともかく親御さんは問題意識を持っていて、親御さんが病院にこれるという層は対応はできますが、貧困層に関しては、治療費が払えないという問題があり、病院にこれないわけですよね。なので、そういうケースは答えに窮します。