M2のサブカル批評 2008 part.6

遅くなりましたがTBSラジオ「アクセス」で放送された宮崎哲弥宮台真司、両氏によるサブカル談議の文字起こし。Part.5は映画についてです。今回で最後になります。


宮台:今年は映画はとても良かった。というのは、観客動員数が今年は凄かった。が、興行収入全体は下がってるんです。何故かと言うと、映画の人かウーマンズデイとか夫婦でいくらとか、そういうので1000円で見ている人がとても多くなったんです。

ご存知のように、ヨーロッパやアメリカというのは封切り映画が500〜700円ぐらいで見られる。日本でももう少し安くならないのかという話がありましたが、1000円という価格だと基本的に多くの人が見に行く。そのぐらいの価値があるんだという事が見直された年なんですね。そういう意味で言うと、ありとあらゆる凋落メディアの中で映画だけが希望を見出せた。


宮崎:来年(今年)は駄目ですよ多分。資金がサブプライムで・・・。結局、IT系とかがファンドを通じて資金を出してたの。それが全部枯渇しちゃったんで、物凄い勢いで本数が少なくなる。

宮台:ハリウッドの既成の映画会社もほとんどまともなもん作れなくて、基本的にはIT関連会社の社長が金を出してプロデュースした映画があたっているんです。実際に日本でも似たような状況はありますよね。

でも、アニメは当たってるよ。今年の最大の収穫は崖の上のポニョです。あれは全てが狂ってるんですよ。で、地球温暖化万々歳という結論でしょ。僕は最高だと思いました。

宮崎:(大爆笑)

宮台:僕は宮崎駿さんの作品を小さいのを含めて例外なく全部見ているんで、宮崎さんはヒューマニストでもなければ自然愛好主義者でもなんでもなく、単に空間構成のダイナミズムに魅せられている人なんです。


宮崎:その通り。俺の評価と全く同じ。だから彼は活劇作家なんだよ。本人にそう言ったらあいつは・・・あいつじゃない(笑)宮崎駿先生はお怒りになったんだよ。宮台さんも怒らせたことがあるけど。

宮台:僕は褒めているんです。 宮崎:俺も褒めてんだよ?

宮台:全くつじつまが合わなくても怒涛の様な活劇展開で結局魅せてしまう。この間、サイゾーでそういうことを書きましたら、鈴木敏夫プロデューサーから抗議が来たようですけども、僕はそれは本当のことを書くな!ということだと受け止めています。


宮崎:千と千尋の神隠しなんて支離滅裂じゃないですか。支離滅裂だけど、腐れ神がお風呂に入って天に昇るシーンの勝つ劇的展開は凄いですよ。天才!


宮台:僕は押井守さんとよく似ていると思っているわけです。2人の共通性は人間主義からほど遠いところにあるということ。押井さんも人間よりも人形や犬、ロボットが好きなんですよね。ものが輝く、これが素敵だなと思っている。あるいは押井さんの代弁をあえて思い込み的に致しますと、ノスタルジーブームというと、昔は人が温かかった社会が温かかった。違うんです。昭和30年代の本質は物が輝いていた。電気炊飯器でさえ輝いていた。そういう時代ですよね。

元々、押井さんを徳間に紹介したのは宮崎さんですよ。そして天使のたまごというとんでもないアバンギャルドな作品が生まれた。僕は映画にヒューマニズムは別に必要だと思ってなくて、活劇的な要素であるとか、物の輝きとか色んなものに開かれた可能性があるので。日本の場合、アニメ作家だけが人間主義から遠いところで素晴らしいフィルムを作ってるというのが僕は凄くいいことだと思うんです。


宮崎:今、若い子を含めて映画を撮っている監督とかはぐずぐずの人間主義で、それが私は嫌なんです。


宮台:あのね、ポニョを批判してる人いるでしょ?真水に入れちゃってとかさ。そんなのどうでもいいんだよ、アニメなんだから。なにまともに見てんだよ。子供に間違ったことが伝わるとおもったらちゃんと教えればいいだけの話ですよ。

僕は娘と見に行きましたけど、見た後ずっとポニョポニョ歌ってましたから。ということはいい映画ということですよ。子供はヒューマニズムに感染するわけじゃなくてガラガラドンドンみたいな活劇に感染するわけ。

渡辺:お嬢さんはパパほど話されるんですか?

宮台:すごいですね。口から先に生まれています。

宮崎:それは将来が思いやられる。じゃなくて期待しちゃいますね(笑)