『電子立国復権へ「量子ドット」で挑む』 WBS特集テキスト化

この企業は、06年設立で社員は約30人。大手電気メーカーなどから引き抜いた有能な研究者ばかりだ。

この企業で開発しているのは、次世代の光半導体とされる量子ドット。量子ドットは、LEDやレーザーなどの従来の光半導体を10万分の1のナノサイズにしたもの。従来の光半導体では、電子と電荷が自由に動き回っているため、結びついて光る確立が低かった。しかし、量子ドットは電子1個がギリギリ入る大きさで、更に周りの電子を吸い寄せる性質を持つため、電子と電荷が結びつく確立が高く、飛躍的に効率を上げる事ができる。

現在、量子ドット半導体が量産できるのは、世界でQDレーザーだけ。それを使って作られたのが、量子ドット光発生装置。これを光回線に使われる家庭用のONUに使えば、従来より3割ほど少ない電力で済む。これを韓国の通信会社が既に採用した。

更に、量子ドットを使い、今まで量産が困難だった緑色レーザーの量産に成功した。赤、青、緑の光の三原色が揃い、どんな色でも出せるようになったことで、レーザーを使ったプロジェクターも可能になった。レーザーはどれだけ離れても光が広がらない性質のため、従来のプロジェクターに不可欠だったピント合わせの装置が必要でなくなった。そのため、数ミリ程度まで小型化が可能になり、パソコンや携帯などにプロジェクター機能を搭載する事が予定されている。

(QDレーザー社長 菅原充氏の話)

先端技術をいかに標準化するかが大事だと思っています。半導体レーザー分野のインテルのような会社になりたいと思っています。

  • 東大ナノ量子情報エレクトロニクス研究機構の取り組み。

量子ドットの概念を世界で初めて発表したのが、東京大学の荒川泰彦教授。2004年には、富士通と共同で量子ドットレーザーの開発に成功。QDレーザーがその技術を引き継いだ。基礎研究は現在、他の大手企業を巻き込んだオールジャパン体制で進められている。


4年前に作られたこの機関。荒川教授の下、大手5社と東大の研究員が同じ場所に常駐して研究をする。日本初の試み。

(荒川教授の話)

きちんとした産学連携の中で量子ドットの基礎研究から、その出口までを見据えたQDレーザーを中心にした企業との連携を計っているところは他に無いと思います。

政府は、この機関に総額約60億の支援を決定している。豊富な技術と、企業の豊富な人材を使い、量子ドットのノウハウを蓄積している。

電気を光に変える性質を逆に使えば、太陽電池となる。従来の太陽電池の太陽光変換効率は15%程度。だが、量子ドットを使えば、理論上60%以上が可能。レンズなどを併用すれば、将来10cm角で家一軒分の電力を賄うことが出来るという。更に・・・

(荒川)

15年後、20年後には、今のスパコンの性能がノートPCに入るような時代が来るであろうと思います。

今の電気の技術のみでは、今後のいくつかの課題を乗り越えることが出来ないであろうと。これを何が解決してくれるかというと、それは光なんですね。

日本には、今までたくさん最先端技術がありましたが、それがどうなったかというと、世界のシェアがどんどん落ちてしまった。今度の技術はこうしてはいけないわけで、そういう意味で、カギはブラックボックス化と世界標準ということだと思うんですね。要するに、0から10まで全部の製品をつくるという話じゃなくて、一番核になる製品をつくる。

例えば、インテルのCPUみたいに中身はブラックボックスなんだけど、それを使って皆が色んな製品をつくれると。そういう国際標準のものを作りたいというのが、教授のお考えだと思います。世界標準にさえなれば、日本の電子立国の復権が見えてくるんじゃないかという気がします。

今までの日本のモノづくりというのは、フルセット型で考えていたわけですが、インテルはそうじゃなくて、自分の技術を皆に使ってもらうことでマーケットを広げていくという発想なので、そういう発想でやれば変わるんじゃないかなと思います。