アニメ「C」  総評

お金を巡る話、EDがschool food punishmentということで、東のエデンを意識させる部分があり期待していたのですが、私にとって、訴えかけてくるものがない、単に金融をネタにしたあまり出来のよくないファンタジーでしかありませんでした。制作会社は違いますが、中村健治監督は、作品ごとに残念な感じになっていると思います。


私が見た感想のなかで、輪転機発動を「日銀による国債引き受け」と捉え、サトウの行動は現実にそれをやればIMFが止めることを表しているとし、「輪転機発動は間違い。この作品はそれを寓話的に描いた警世の作品である。」的なことを書いている方がいたのですが、その解釈が合っているかどうか、政策の是非は別としても、ミダスマネーは国債と捉えられるし、「現在の幸福のためだけに、未来を犠牲にしてはならない」というメッセージを読み解くことはできます。しかし、この作品はそれ以上の何か問うものがあるとは感じませんでした。これだけのことをこの時代にわざわざファンタジーを通して語る意義がどこまであるか疑問です。

先週の「白熱教室JAPAN」は、世代間の正義を考えるというテーマだったのですが、この作品は特別にそれを考えさせるものにもなっていません。それはこの作品で描かれる未来は、自分が直接関わる近未来だけで、更に未来が現在生きる人びとにも悪影響を与えるとなると、それを守ろうと思うのは、まぁ当たり前だろうと思ってしまうからです。

なのに、公共の正義を考えていると思っていた三國がそういう現実を全く見ず、最後にシスコンを吐露する形で「いずれ人類は滅びる。明日などどうでもいい」などと極端なことを言ったり、父親との確執に還元され、問題や人間性が矮小化されてしまったのに違和感がありました。

余賀についても、安定志向の内向き的な現実での個人の生き方が問われるという題目が途中から完全にどこかへ行って、いつの間にか物事を深く考えていて、その裏にある自己愛性にも意識的であるという「賢さ」を持った人間として描かれ、そういう人間が他にはいないという特別性を持って肯定されているのも何だかなあと思います。といっても、最後は考えに考えた上での行動というわけでもなくサトウの言うことを鵜呑みにして、感情的に動いているように見えて、7話で示した余賀の一面には何の意味があったのかと。真坂木に出会った時と、最後に別世界に出てきた時の反応も間が抜けていて、この作品は全体的に人物描写が雑な感じがします。

サトウは、何で常に飴なめてたり何か食べてたりさせたのか意図がまるで分からず、食べながら喋るので、聞き取りにくい部分があったり、不快さもあったりしました。そもそもの演技があまり上手くないというのもあるのですが、この声優の方、前からこんなだったかな。


世界感について。金融街そのものの存在理由が描かれていませんが、そこはまぁそういう世界なんだと納得するとしても、輪転機
の存在というのが、一つの結末に持っていくために用意された都合のいい装置でしかなく、物語としてのリアリティさが欠如しています。輪転機の存在と、それを使えるのが、国の行く末を左右するような政治的存在になっている三國であるというのはいいとしても、何故か逆回転する機能があって、その権利が余賀に与えられるのは都合が良すぎます。

真坂木が言う「上」は、制作者自身を指している部分があり、その神的な存在に、監督あるいは脚本家が視聴者に伝えたいであろうことを直接的に代弁させてしまうというのもナンセンスですが、その内容も取ってつけたようなもので、何を言いたいのか分からないところも。「みんな正しい。世界を良くしようと戦って」、“みんな”って誰?石動や竹田崎のような人間も含むなら、あまり説得力がない。「そして世界はよりよくなった」、どこの世界のお話のことを言ってるの?その後の言葉は頷く部分はあるものの、余賀の金融街は何だったのかという質問への答えにはなっていません。

Cパートの展開は、どことなく「まどマギ」を意識したのかなと思うところがあったのですが、安易なハッピーエンドにはなっていないものの、すごく中途半端で、何で世界がこうなっているのかという理屈付けもなく、この世界での余賀の存在はどうなったのかもはっきりしない。実在はしているけど、誰も余賀のことを知らないのか。そこをはっきりさせないから、余賀に対して同情心を抱いたり、感情を揺さぶられることもなく、余賀と同様に狐につままれた気分になるだけです。

そういえば、サトウが余賀の父は、どうにかして金融街から逃れたから、今の余賀が存在するとか言っていましたが、その真相も描かれないまま。

私は、何でもかんでもはっきりさせるべき、わかりやすくすべきと言いたいわけではなく、そこにある明確な意図や思いが伝わってこない、伝えたいことが先にありきでちゃんと物語を作ろうとしていないと感じるからで、それが出来ていたら文句はありません。まぁ、私が意図や思いを私が読み取れていない部分がある可能性もありますが、とりあえず今のところの感想を正直に書いただけで、自分の評価が絶対と思っているわけではありません。

最後に、先に挙げた「白熱教室JAPAN」は、本日土曜深夜に再放送があります。Cを評価している人にもそうでない人にも是非見ていただきたい内容なので「白熱教室JAPAN」オススメです!