ひきこもり問題を考える TBSラジオ「Dig」テキスト化 Part.4

パーソナリティ:荻上チキ、外山惠理アナ

ゲスト:斎藤環精神科医

電話出演:池上正樹(ジャーナリスト)、井出草平社会学者)

荻上

ひきこもり対策についてお伺いしたいんですが、対策と言った時に本人の人権の問題もあると思うんだけど、社会の側から見て、このままひきこもりを放置することによってどのような問題が起こるのでしょうか?


(井出)

斎藤先生が仰られたように、元々不登校の延長というところがありまして、それが70年代後半からこの問題が表れて、その方たちが問題が解決しないままの状態でいますと、今はまだ大丈夫でも、その親が死んでいったりするわけです。最悪小学校の時からひきこもっているような人がいて、そういう人は生活能力がまるで無く、孤立した状態で社会に放り出されることになります。


(外山)

働いてもいないし、家族の人以外と話してもいなかったら、いきなり外に出て生活することなんて無理じゃないんですか?


(井出)

やはり無理ですね。大阪府の方で就労支援についての政策評価をさせて頂いているんですけども、30代の場合であっても非常に生活能力が低いということが見てとれます。


荻上

他に放置しておく事によっての社会的な損失があればお聞きしたいのですが


(井出)

実際問題として、生活能力が無い者をそのまま放り出してしまうという事になると、ホームレス化したり、自殺者が増える等の問題が起こると思います。そうなると、社会保障でなんとかしなければいけないので、結局税金が投じざるを得ないということになって、
結果的に損得で言えば損になるだろうと、早めに対策した方が安く済むということですね。

(外山)

ひきこもりを脱出された方は何がきっかけで脱出できたんですか?

(井出)

きっかけというのは、ほとんど規則性が無くて、30歳になったからという理由で出てこれた人もいるんです。しかし、それが全員に当てはまるわけではなくて、ばらばらなんですね。

(外山)

30歳になったからと考え方を切り返られるんだったら、最初からひきこもりにならずに済んだんじゃないかと思っちゃうんですが

(井出)

まぁ、そういう人は少数だろうと思います。

荻上

規則性がないといっても、なんらかのアプローチをしなければいけないわけで、実際にはどういう援助やケアがされているのでしょうか?

(井出)

ニートが話題になった時に、若年就労予算というのが出来て、大学生までの学齢期においては、学校に戻るという事を目標にしています。学齢期を過ぎたら就労という事になりますが、先ほど話があったように一度社会参加してからひきこもりになったような方は、ひきこもり生活が長くなる事によって生活能力が著しく退化するということが起こります。

(外山)

元ひきこもりの方からメールが来ていて、僕は友達が声をかけてくれて脱出できたということなんですが

(井出)

そういう方もおられますよね。それは、逆説的にコミュニケーションの問題や社会参加で失敗したことが原因でひきこもっている人と考えられるからです。

(外山)

人が嫌でひきこもった方とかに対して積極的に話し掛けたりしていいものなんですか?

(井出)

それは難しいところがありますね。接して欲しくないとか言うんですけど、それをその通り受け止めていいのかというのは別問題でして、本当はコミュニケーションがしたいんだけど出来ないので、そういう言葉を言ってしまう場合があるんです。あと、タイミングの問題もありまして、規則性も何も無いんですけど、たまたまいいタイミングで声をかけたら、引っかかってくれたということもあります。

荻上

今の話を聞いていると、レンタルお姉さんとか外に引き出そうとするサポートがありますけども、タイミングが偶発性に委ねられているとなると、外に出すという事だけに特化してしまうことのリスクも考えなければいけないなと。

先日、出演の依頼をさせていただいた際に、何か井出さんが新しい試みをしているということなので、それについてのお話をお願いします。

(井出)

先ほど斎藤さんが参加していると仰った、厚生労働省ガイドライン作成に僕も関わっていまして、僕は大学のひきこもりを中心に研究をやっていました。その中で、大学のひきこもりというのは86%が今まで不登校の経験が無く、大学に入ってからひきこもり状態になったということが分かったんですね。

これを何故かと調べてみますと、高校と大学の間にかなりの感情の変化があるということが分かってきました。具体的に言うと、高校まではクラス制なので、それなりにコミュニケーション機会が確保されているんですね。ところが、大学はクラスが無い大学が多いですし、自分から積極的にコミュニケーションを求めていかないと孤立してしまう確立が高くなるわけです。
孤立して、不登校がちになり、単位が取れなくなり、退学になってしまい、そのままひきこもりになってしまうというケースが多いんです。

対策としては、学校に来なくなるということが一つのサインなので、そのサインを見逃さずに大学側がアプローチする必要があるということで、既にそれを神奈川工科大学がやっています。そこでは、毎年5%ぐらいの退学率だったものを半減させたという実績があります。
これを全国的に広げていけば、大学で起こり得るひきこもりをかなり減らせるんじゃないかと思います。