BSディベート「子ども手当 5兆円は何をもたらすのか?」一部テキスト化 Part.2

http://www.nhk.or.jp/bsdebate/1003/theme.html

今月放送された、NHK-BS1「BSディベート」をテキスト化しました。

(飯田)

僕自身は、この現金給付だけで出生率が上がることは有りえないと思っています。というのも、2万6000円貰えたらもう一人子どもを生むかといったら、そこまで話は簡単では無いわけです。その一方でそれでも尚、私自身は現金給付が必要だと考えていて、その理由の一つは日本の場合、再分配、税金を取って補助金を与えると、若者の子育て世代だと貧困率が上がってしまうという現実があります。つまり、普通は税金を取って補助金を出すと格差は縮まるはずですが、子どもに関しては逆にそれによって広がってしまうという異常な状態なわけです。
その是正、子どもの貧困に対する対策が子ども手当の中心的な役割で、少子化対策については、制度であるとか法的な整備のほうが重要なんじゃないかと思います。

(井堀)

少子化の問題は根が深くて、日本に限らず先進国も少子化が進んできているわけです。これを金銭的な要因で向上させるのはかなり限界がありまして、例えば子ども1人に対して10万円出すと増える可能性もありますが、とても財政的に無理なので、子ども手当少子化対策としてやるとするならば、先ほど出ましたけど、2人目から出す。あるいは、2人目以降に手当てを手厚くするとかいう形で、子どもを生むインセンティブを与えるのが経済的に意味があると思います。ただ、それよりも少子化対策で重要なのは、社会的な環境整備です。

(川本)

私は、多少は効くと思うんです。社会の雰囲気というのが状況を変えていく効果があると思います。もちろん、これだけで十分なわけは無く、社会的な整備も重要です。

(ファニャニ)

子ども手当だけで少子化が防げるとは全く思いません。ドイツやオーストリアについて紹介すると、両国はヨーロッパの中では現金給付において最も寛大な国なんですが、それが少子化対策には繋がっておりません。例えば、ドイツでは90年代、現金給付を大幅に増やしましたが、出生率に影響を及ぼす事はありませんでした。

では、フランスはどうか?現金給付の額はヨーロッパの中では平均並ですが、子どもは社会の宝とみなされております。社会全体が子育ての責任を担っているという意識があります。だからこそ事業主が家族政策に関して負担している。労働組合も家族政策に関する意思決定に参加しているんです。フランスにはちゃんとしたコンセンサスがあるんです。「未来に投資をしましょう」と。出来る限り早い段階で子どもに投資をしなければならない。生まれた段階で投資をするべきである、そして、高い質でお手ごろな価格の保育サービス与えなければならないというコンセンサスがあるんです。

川本さんが仰る事はその通りで、社会が子育てを担う役割をする必要があるということです。女性に対してそういうメッセージを社会が発信しなければなりません。


(川本)

やはり育児サービスの充実とか、長時間労働や休暇が取れないのをどうするかとかあらゆることを解決していくということが大事だと思います。

(井堀)

仰るとおりで、特に環境整備の面では、女性だけに育児の責任を押し付けないで、男性の意識を変えることが重要だと思うんです。フランスの場合は、婚外子の比率が多いんですけど、日本の場合、結婚が非常に遅くて、結婚をしないと子どもを生まない人が多い。結婚をしない理由の一つとして、結婚をすると、女性が子育てばかりじゃなく、家事の面などを含めて責任を負わされて、仕事と両立できないわけですね。そういう雰囲気が出来てると、なかなか女性が結婚しないし、子どもを生む気にならない。だから男性の意識を変えなければいけない。その為に男性が育児休を積極的に取れるような、そういう体制が必要だと思います。

(川本)

女性の就業率が高いほど出生率が高いという統計がありますから、女性の社会進出を促す事で出生率も上がっていくと思います。
環境整備にもお金がかかりますが、お金をそんなに使わなくてもNPOとかが参入して育児サービスを提供できるように規制を緩和するとか、そういう方向もあるので、財源だけじゃないと思います。

(井堀)

私は、やはり所得制限をかけて、そこで浮いたお金をインフラ整備に回す必要があると思います。

(飯田)

私自身はやはり現金給付の重要性は高いと思っておりまして、先ほどから子育てと言った時に取り上げられるのは未就学の子どもを持つ人ばかりなんですが、実際に制度設計であるとか保育所は0〜5歳時ぐらいの話で、子育てがそこで終わるかというとそうじゃなくて、一番お金がかかるのは小学生から中学生にかけてで、もう少し小・中学生という視点を持つと、現金給付の重要性というのが分かるのではないかと思います。

(川本)

環境整備といったときに、やはり利用者の視点に立たないといけないと思います。供給側に対して補助を与えるという形だと市場が増えていかないということになりますので、色んな担い手、例えば子育て経験がある人を保育ママとして増やすとかいうことをもっと考える必要がありますし、あと子ども手当をバウチャー方式にしてもいいんじゃないかと思います。

(飯田)

更に制度整備といったときに、どうしても箱物であるとか保育園を建てるというところに目が行ってしまいがちなんですが、いま必要とされている環境整備というのは川本さんが仰られたように、様々な組織や団体が保育サービスに参入しやすいように規制を緩和していくということが必要です。これであれば財源の心配をする必要がなく、少子化対策が出来るんじゃないかと思います。

(川本)

政府の試算だと100万人の待機児童がいて、物凄く需要があるわけだから、そこに経済効果があると思いますね。

(井堀)

認可と無認可の保育所の差別をもう少し取り払って、供給側もバウチャーのような方式でやればいい。いずれにしても所得がある人にも普及するというのは、今の財政状況の中ではやるべき政策ではないと思います。